労働保険の対象者や労働保険の申告書(継続事業用)を作成する手続きの手順について

労働保険の対象者や労働保険の申告書(継続事業用)を作成する手続きの手順について

 毎年6月1日から7月10日は労働保険の申告時期です。

※ 6月1日が土日に当たるときは翌月曜日まで、7月10日が土日に当たるときも翌月曜日までとなります。

 

労働保険は、新年度の概算保険料と前年度の確定保険料をそれぞれ計算し、申告・納付の手続きをします。これを【年度更新】といいます。通常は6月1日から7月10日までが年度更新の手続き期間ですが、今年は新型コロナウィルスの影響で労働保険の申告・納付の期間が、6月1日から8月31日まで延長になりました。

労働保険には

  1. 労災保険
  2. 雇用保険

の2種類があり、継続事業用、有期事業用で申告方法も異なります。

 

それぞれ対象者が異なりますので、注意してください。

  1. 労働保険対象者の範囲

労災保険

常用、日雇、パート、アルバイト、派遣等名称や雇用形態にかかわらず、労働の対償として賃金を受けるすべての者が対象となります。

 

雇用保険

雇用される労働者のうち、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、②31日以上の雇用見込みがある場合には原則として被保険者となります。

(2)個々の労働者の届出

労災保険

労働者ごとの届出は必要ありません。

 

雇用保険

新たに労働者を雇い入れた場合は、その都度事業所を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)に「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があります。

 

(3)法人の役員の取り扱い

労災保険

代表権・業務執行権を有する役員は労働保険の対象となりません。ただし、一定の条件によって特別に労災保険に加入することができます。

 

雇用保険

法人の取締役は原則として被保険者となりません。ただし、一部従業員としての身分で労働する場合については兼務役員として被保険者となります。

 

(4)事業主と同居している親族

労災保険

原則として対象者となりません。

ただし、

  1. 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること
  2. 就労の実態や賃金等の労働条件が当該事業場における他の労働者と同様であること

の要件を満たしていれば例外的に対象者となります。

 

雇用保険

原則として被保険者になりません。

ただし、

  1. 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること
  2. 就労の実態や賃金等の労働条件が当該事業場における他の労働者と同様であること
  3. 事業主と利益を一にする地位(役員等)にないこと

の条件を満たしていれば例外的に被保険者となります。実務的には実態を確認できる書類をハローワークに提出して手続きを行います。

 

(5)出向労働者

労災保険

出向先事業主の指揮監督を受けて労働している場合は、出向先で労災保険に加入します。

 

雇用保険

出向元と出向先の2か所で雇用関係がある場合は、生活のための主たる賃金を受けている方の雇用関係についてのみ被保険者となります。

(6)派遣労働者

労災保険

派遣元は原則としてすべての労働者を対象労働者として適用してください。派遣先は原則として手続きの必要はありません。

 

雇用保険

派遣元で雇用保険の手続きを行います。派遣先では原則として手続きの必要がありません。

(7)日雇労働者

労災保険

すべて対象者となります。

 

雇用保険

日々雇用される者又は30日以内の期間を定めて雇用される者のうち、日雇労働で生計を立てている場合は日雇労働被保険者となります。

 

労働保険の申告書(継続事業用)を作成する手続きの手順

1.確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表の作成

最初に確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表を作成します。

労災保険に加入している労働者の賃金と雇用保険に加入している人の賃金を月別に集計しなければなりません。

この表で「常用労働者」「臨時労働者」という項目記載がありますが、「常用労働者」とは雇用保険に加入している人、「臨時労働者」とは雇用保険に加入していない人で区別されます。前述したとおり今年は高年齢労働者の取扱いに変更がありました。

 

令和元年度の雇用保険の確定保険料では高年齢労働者の賃金は算定除外ですが、令和2年度の雇用保険の概算保険料からは高年齢労働者の賃金を算入して計算します。

 

2.申告書を作成

各保険ごとに賃金を集計したら、次に申告書を作成します。

労働局から各会社に配布されている申告書には適用される保険料率があらかじめ記載されていますので、集計した賃金と保険料率を乗じて労働保険料を算出します。前年に納付した労働保険料と比較し、確定保険料の精算を行っていきます。

厚生労働省では、申告書作成の検算ツールも公表されていますので、計算に少し自信がないときはぜひ活用してください。

 

労働保険の年度更新は電子申請で行うことができます

労働保険の年度更新は電子申請で行うことができます。

日本シャルフなどの手続き業務用ソフトで簡単に電子申請手続きを行うことができるのでオススメです。

手続き業務用ソフトと給与計算業務ソフトを連携して使える場合は賃金集計もボタン一つで行えるのでさらに便利です。

「常用労働者」と「臨時労働者」が正しく登録されているか?集計する給与期間が4月分から翌年3月分までに設定されているか?雇用保険に加入している人数と高年齢労働者の人数が正しく登録されているか?など、いくつか確認するべき点もありますので、初めて手続き業務用ソフトを使う方は注意をしてください。

 

労働保険料は口座振替も可能です。保険料の引き落としに最大2か月のゆとりができます。保険料を分割で納付しない場合は毎年2月頃に新年度の口座振替手続きが終了しますので、早めに手続きをしましょう。

年度更新申告書の書き方について不明点があれば、専用のコールセンターを活用すると良いでしょう。

 

◇東京コールセンター 0120-560-710
(令和2年5月29日~7月14日、土日祝日を除く9時~17時まで)

 

新型コロナウィルスの影響で、労働保険料の納付が難しい場合は、一定の要件にあてはまれば労働保険料の納付猶予が認められます。

事業場の所在地を管轄する労働局に、「労働保険料等納付猶予申請書」などの書類を提出し、手続きをする必要があります。

 

まとめ

労災保険は業務内容の危険度に応じて保険率が定められており、3年ごとに見直しが行われています。

雇用保険は毎年度見直しがあります。労災保険料は全額事業主が負担しますが、雇用保険料は労働者にも保険料負担があります。保険料率が変更になる年度の切り替え時期は特に注意しましょう。

 

今年4月1日からは64歳以上の高年齢労働者についても雇用保険料の算定対象となりました。4月分以降の給与計算で雇用保険料が控除されているか再確認してみてください。

労働保険料の計算の基礎に算入する賃金と算入しない賃金があります。賃金総額に算入するものの中には判断に迷うものもあります。

 

今年は新型コロナウィルスの影響で都道府県知事から休業要請のあった業種も多く、休業期間中は休業手当が支払われていますが、休業手当は労働保険料の算定基礎賃金になりますので注意が必要です。

一方、長引く休業で従業員を解雇せざるを得ない会社もありますが、解雇予告手当については労働保険料の賃金総額には算入しません。労働保険料の算定基礎賃金の判定は労働局のホームページで確認することができます。

特定社会保険労務士 古川天(社会保険労務士法人TENcolors)

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