【男性の育児休暇は義務?改正された育児・介護休業法を解説】

【男性の育児休暇は義務?改正された育児・介護休業法を解説】

 

2022年4月から「改正育児・介護休業法」が随時施行されることとなりました。

企業には、従業員が育児・介護といった家庭生活と仕事をうまく両立できるよう、職場環境の改善が求められます。これまで任意だった項目についても一部義務化されているため、法令に則った適切な対応が必要です。

この記事では、育児・介護休業法の改正内容と企業に求められる取り組みについて解説します。

目次

育児・介護休業法の改正

男女ともに仕事と育児・介護を両立できる職場環境を築くために、1991年3月「育児・介護休業法」が制定されました。

ところが、育児・介護休業法が制定されてから30年経ったいま、国内における育児休業の取得率は、男女で大きな差がある状態です。

・女性労働者:81.6%
・男性労働者:12.65%

出典:厚生労働省「令和 2年度雇用均等基本調査の結果

そこで政府は、2021年6月に、男性の育児休業取得を促進させるため、育児・介護休業法を改正しました。以下のとおり、2022年4月から段階的に施行されます。

「育児・介護休業法」改正の背景

育児・介護休業法の改正が行われた背景には、男性における育児休業取得率の低さが挙げられます。また、男性の家事・育児時間の少なさが、女性の継続就業率に影響していることも要因のひとつです。

育児休業取得率と取得期間

育児休業の取得率は、男女で大きな差があります。
以下の表は、2015年から2020年までの育児休業取得率の推移です。

男性の育児休業取得率は年々上昇傾向にあるものの、女性の取得率に比べると依然として低い状態です。2020年度においても、女性の約8割に対して、男性は約1割の取得率となっており、多くの事業場において育児休業が取得されていないことが伺えます。
また、育児休業の取得期間についても男女の間で大きな違いが見られます。 厚生労働省によって行われた集計によると、2015年と2020年の育児休業の取得期間は、次のような結果になりました。

男性では「5日以上・2週間未満」の取得が17.8%から35.1%へ大きく増加しているものの、全体の約80%が2週間未満の取得に留まっている状況です。

世界的に見ても少ない男性の家事・育児時間

日本のみならず、世界的に見ても男性の家事・育児時間は少なくなっています。先進国7か国における、男性の1日当たりの家事・育児関連時間は以下のとおりです。

▽男性の1日当たりの家事・育児関連時間

先進国7か国のうち、日本は男性の家事時間がもっとも少なく、育児時間はフランスに次いで2番目に少ない結果となりました。
一方で、夫の平日における家事・育児時間が長いほど、妻の出産前後の継続就業割合が高いという結果も報告されています。

女性の継続就業率

国立社会保障・人口問題研究所が公表しているデータによると、女性の継続就業率は年々増加傾向にあります。

2010年から2014年までの集計では、出産前後で就業を継続した妻の割合は53.1%、出産退職した割合は46.9%でした。このように、継続就業率が増加傾向にあるとはいえ、約半数の女性が第1子出産後に退職しています。

一方で、出産後で仕事に就いていない妻のうち、86%の人が就業を希望すると回答しており、その理由として「自分の収入を得たい」「子どもの養育費のため」など経済的な理由が半数を占める結果となりました。(※末子の年齢が0~14歳の女性への調査)

出典:国立社会保障・人口問題研究所 「第15回出生動向基本調査(夫婦調査)

①制度の周知・休業取得の意向確認(2022年4月1日施行)

今回の法改正によって、育児休業に関する「制度の周知・休業取得の意向確認」が企業に対して義務付けられました。これは、本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た労働者に対して、企業側が育児休業制度の周知や意向確認を行わなければならないというものです。

②雇用環境の整備(2022年4月1日施行)

企業は、労働者が育児休業と出生児育児休業を申請しやすくするために、法令で定められた以下の措置のいずれかを講じなければなりません。

  1. 育児休業に関する研修の実施
  2. 育児休業に関する相談体制の整備
  3. 労働者への育児休業に関する取得事例の収集や提供
  4. 労働者への育児休業に関する制度と方針の周知

育児休業に関する情報の周知に加えて、研修や相談体制の整備、取得事例の提供などを通じて、労働者が育児休業を取得しやすい環境をつくることが求められます。

③育児休業を取得する要件の緩和(2022年4月1日施行)

今回の法改正では、育児休業・育児休業給付を取得するための要件が緩和されました。
改正前と改正後の主な要件を比較すると、以下のようになります。

判断のポイントは「申請があった時点で、契約更新がないことが確実であるか否か」です。企業が「更新しない」と明示していなければ、原則として「更新しないことが確実」とは判断されません。

また、この内容については就業規則の変更が必要です。常時10人以上の労働者がいる場合は、労働基準監督署に変更した旨を届ける必要があります。

④育児休業制度の改正(2022年10月1日施行)

2022年10月1日から、育児休業制度が大きく変わります。現行の「パパ休暇」は2022年9月30日で廃止されます。

改正前と改正後の内容を以下の表にまとめました。

上記の内容についても、就業規則の変更が必要です。

1歳までに取得できる育児休業

従業員の子どもが1歳までに育児休業を取得する場合、最大2回まで分割して取得できます。育児休業予定日の繰り上げ、繰り下げは共に1回ずつ変更が可能です。また、2回取得する場合でも、まとめて申請する必要はありません。

1歳以降に取得できる育児休業

1歳以降に育児休業を取得する場合、改正前では取得可能日が1歳と1歳半の初日に限定されていました。しかし、改正後は取得可能日を柔軟に選択できます。これにより、夫と妻で取得日を別々にして交代で育児をすることが可能です。
また、特別な事情があるケースでは、1歳以降の育児休業を再度取得できます。例えば、第1子の育休中に第2子を妊娠して、第1子の育休終了後に産休対象だった第2子が死亡したケースが挙げられます。

パパ休暇の経過措置

前述のとおり、改正後は「パパ休暇」が廃止されます。
改正前に取得していたパパ休暇は、後述する「出生時育児休業(産後パパ育休)」もしくは前述した「育休の分割取得」に見直されます。
すでにパパ休暇を取得しているケースでは、以下のような扱いとなります。

・施行日前に育児休業を取得していた⇒施行日後に再取得できる(ただし1回まで)
・パパ休暇の取得中に施行日をまたぐ⇒施行日後に再取得できる(ただし1回まで)
・施行日前に産後8週以内の初めの育児休業を開始した⇒出生時育児休業とみなす

⑤出生時育児休業(2022年10月1日施行)

出生時育児休業は通称「産後パパ育休」と呼ばれる新しい制度です。出生時育児休業の主な特徴は以下のとおりです。

・育児休暇とは別に申請が可能
・取得期間は出生後8週間まで
・取得可能日数は最大4週間(28日)まで(28日を超える場合は、育児休業の扱い)
・分割回数は2回まで

出生時育児休業の制度は、男性の育児休業の取得を促進させるために、育児休業よりも柔軟で取得しやすい仕組みが設けられています。

出生時育児休業の手続き方法

出生時育児休業の手続き方法は、以下のとおりです。
なお、企業の規定によって、労働者にとって有利になる扱いをする場合は、上記の法律を上回る措置として講じても問題ありません。

申請期限を1か月にする労使協定

原則、出生時育児休業の申請期限は2週間前と定められています。
ただし、以下の2つの内容を労使協定で定めることで、現行の育児休業と同様に申請期限を1か月前までとすることが可能です。

1.雇用環境の整備等の措置の内容(前述した②雇用環境の整備にあたる)

2.出生時育児休業の申請期間(2週間超~1か月以内)

休業期間中の就業

原則、出生時育児休業中の就業は認められていません。
ただし、休業中に就業できる範囲について労使協定を締結して、休業開始予定日前日までに従業員の同意を得ることで、就業させることが可能です。

手続きの流れ

出生時育児休業中の就業手続きの流れは、以下のとおりです。

1.従業員は就業を希望する場合、休業開始予定日の前日までに、企業に対して次の内容を書面で申請する。
・就業可能日
・時間帯(所定労働時間内に限る)
・労働条件

2.企業は、次の内容を速やかに書面で提示する。
・就業可能日のうち就業を希望する日 ・時間帯
・労働条件

3.従業員は、企業の提示に対して同意する場合、その旨を休業開始予定日の前日までに書面で提出する。
4.企業は「同意を得た旨」と「2.」で記した内容を書面で従業員に通知する。

就業の注意点

出生時育児休業制度は、子どもを養育するために設けられた休業制度です。企業が従業員に対して、一方的に就業可能日数を求めることは認められません。養育の目的を果たせないような休業中の就業も、休業の趣旨に反しています。
これらを踏まえて、休業中の就業日数には以下のような上限が設けられています。

・休業期間の所定労働日の半分、所定労働時間の半分である
・休業開始予定日、終了予定日を終業日する場合、所定労働時間未満である

また、就業日数次第では「育児休業給付」「休業期間中の社会保険料免除」について要件を満たせなくなる可能性があります。休業中の就業について説明する際に、あわせて伝えておくことが大切です。

⑥育児休業の取得状況を公表する義務(2023年4月1日施行)

常時雇用する労働者が1,000人を超える企業は、育児休業の取得状況を年に1回公表することが義務付けられます。

公表する内容には、以下の2つのいずれかが挙げられます。

 ①男性労働者の育児休業等の取得割合
 ②育児休業等と育児目的休暇の取得割合

公表する際は、自社ホームページや厚生労働省が運営する「両立支援のひろば」などで一般公開することが推奨されています。

法改正に向けて企業が取り組みたいこと

男性の育児休業取得率を向上させるためには、企業による環境づくりやサポートが欠かせません。「他の社員に迷惑がかかる」「育児休暇を取れる雰囲気ではない」などの声を減らすためにも、育児制度の周知と丁寧な説明、社員の研修を徹底することが重要です。

また、育児休業で欠員が出たときの業務の配分・配置についても、あらかじめ考えておく必要があります。
このように、育児休業をはじめとして、企業の風土を作り替えるには相当な時間が必要です。それでも、育児休業を取得しやすくして福利厚生を充実させることは、従業員の満足度向上や定着率向上、ひいては企業のイメージアップにつながります。
性別にかかわらず、家庭生活と仕事を両立しやすい職場環境をつくるために、改正法に則った対応をはじめ、柔軟に業務を配分・人員配置ができる体制を整えておきましょう。

まとめ

男性の育児休業に対して、ためらいや否定的な風潮をなくすには、上司や現場の管理者、人事労務担当者などの社会全体の協力が欠かせません。従業員にとって働きやすい職場環境を、企業と従業員が共に作り上げることが重要です。

HR-GET編集部

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