【年末調整:令和3年改正版】2021年度からの税制改正の変更点&注意点

【年末調整:令和3年改正版】2021年度からの税制改正の変更点&注意点

【目次】

財務省は働き方の多様化を踏まえた「働き方改革」の後押しする観点と、税制変動による負担の軽減と子育て世帯等への配慮から、2020年より所得税に関する改正を施行しました。また、2020年からはこれまでと違い、国として年末調整の電子化も推し進めています。

2021年も引き続きこれらの移行期のため年末調整に関する変更点があります。

この記事では年末調整に関する2020年改正項目の再確認と2021年の追加改正項目・注意点そして、2022年に予定されている改正点について解説します。

参考:国税庁「年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)

参考:財務省「年度改正

2020年から開始された年末調整改正の目的

2020年度より年末調整は税制改正に伴う大きな変更を遂げています。

国税庁は改正の大きな柱として、これまでの手書きによる手続きから「電子化への移行」を挙げています。この電子化にあたり申告書類等への押印義務を撤廃し、様式も押印欄のないものへ更新しました。また、年末調整手続きの電子化には従業員と勤務先の両者に以下のようなメリットがあると述べています。

【従業員】
  • 手書きによる申告書類への記入・控除額の計算などを省略できる
  • 従来あった控除証明書等の紛失時に再発行依頼をかける手間も不要

【勤務先】
  • 従業員がデータを利用することで控除額の計算が必要ない
  • 添付書類等の確認作業の削減
  • 従業員の記載ミス等のチェック・訂正依頼の手間もない
  • ペーパーレス化が促進。印刷等に関する経費削減
  • 書類保管コスト削減

参考:国税庁「年末調整手続きの電子化の概要・メリット」,「税務署窓口における押印の取扱いについて

2020年の改正項目4点について再確認

2020年の改正項目4点について概要を再確認しておきましょう。
また、2020年の改正項目に関する詳細は「令和2年の年末調整の改正ポイントを徹底解説!」の記事にあります。

参考:国税庁「令和2年度 所得税の改正のあらまし」, 財務省「年度改正

①基礎控除及び所得金額調整控除

下記のような従来の個人所得課税では想定していなかった「新しい働き方」に対して、多様な働き方の後押しを目的として所得に応じた基礎控除金額の変動を施行しました。これまで基礎控除金額は全員一律38万円でした。しかし、2020年より合計所得金額が2,400万円以下である場合、基礎控除金額は48万円に改正されました。このため、申告書が新しく「給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」に改正されています。

(例)
  • フリーランス
  • 起業家
  • 在宅ワーカー
  • テレワークで仕事を請け負う子育て世帯

②給与所得控除

2020年の税制改正に伴い、給与所得控除の内容は以下のように引き下げられました。

【給与収入500万円の場合】

控除額の計算式

給与所得控除金額

改正前

給与収入x20%+54万円

154万円

改正後

給与収入x20%+44万円

144万円

この改正で注意が必要なのは給与年収額が850万円を超え、所得金額調整控除の適用を受けない方です。この条件に合う人は給与控除の上限額が195万円であるため従来と比べ、実質的な増税に当てはまります。

③ひとり親控除

2020年より既婚歴の有無を問わず、事実婚以外の「ひとり親」である所得者を対象として創設されました。この控除を受けるには以下の条件に当てはまる必要があります。

【ひとり親控除の要件】
  • 同一生計である子(総所得金額が48万円以下)を有する人
  • 本人の総所得金額が500万円以下である人
  • 本人の住民票に事実婚を含む婚姻関係を示す記載がない人
ひとり親控除額の対象者には、所得税より35万円と住民税より30万円の控除を受けることができます。

④所得金額調整控除申告書

給与年収が850万円を超える場合は税負担が増加します。しかし、この年収帯の多くが子育て・介護の世帯と重なるため、2020年より所得金額調整控除申告書が創設されました。給与収入が850万円超える見込みで以下の条件に当てはまる場合は、給与収入1,000万円を上限として控除を受けることができます。

【所得金額調整控除に該当する人】
  • 特別障害者である
  • 扶養親族内に特別障害者を有する人
  • 同一生計配偶者が(給与収入103万円以下)特別障害者の人
  • 23歳未満の扶養親族がいる人

2021年に追加される改正項目

2020年から開始された年末調整電子化は2021年にも引き続き影響を及ぼします。
どのような改正項目があるのか。2021年より廃止・変更・改正される点について解説します。

参考:財務省「所得税法等の一部を改正する法律案要綱

2021年から年末調整で廃止される点

従来は電子化するにあたり、税務署で「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、税務署長からの承認を得る義務がありました。しかし、2021年4月1日以降は従業員から電子化された年末調整申告書を受け取る際、その事前手続きが廃止されました。また、申告書類への押印義務も廃止されています。

参考:国税庁「年末調整手続きの電子化の概要・メリット」,「税務署窓口における押印の取扱いについて

年末調整関係書類の変更

税制改正により年末調整関係書類において修正・変更が予定されているものは以下のとおりです。
  • 令和4年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
  • 令和4年分 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書
  • 令和3年分  給与所得者の保険料控除申告書 
  • 令和3年分  給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
  • 令和4年分 給与所得に対する源泉徴収簿

参考:国税庁「変更を予定している年末調整関係書類(事前の情報提供)

住宅ローンについての改正項目

住宅ローン控除についても大きな改正ポイントがあります。提出方法等の改正点について解説します。

参考:国税庁「年末調整手続きの電子化の概要・メリット

住宅ローン控除申告書の電子化

2020年度までは年末調整の電子化対応が完了している企業であっても、手書きの原本提出が必要とされていた「住宅ローン控除申告書」が2021年度より電子化されました。それに伴い、申告書類への押印義務も廃止されています。

しかし、電子化されるのは「住宅ローン控除申告書」のみが対象です。「住宅ローン控除証明書」については原本の提出が依然必要とされていることに気をつけましょう。

ただし、マイナポータル対応がすでにされている年調ソフトを使用されている場合、証明書の電子化にも対応することができます。

住宅ローン控除申告提出方法変更

2021年度より住宅ローン控除申告の提出方法にも変更があります。年末調整における住宅ローン控除申告も電子化されるため、国税庁では「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」の無償提供が開始されました。これまでの年末調整では、従業員が手書きで書面作成し給与担当者が検算する必要がありました。それに加え以下の方法も可能になりました。

具体的に言うと、従業員自身で年末調整ソフトを利用して控除証明書を自動算出します。そして、担当者が給与システムに取り込み、自動でチェックし、年税額の計算をします。

参考:国税庁「年末調整手続の電子化に向けた取組について

住宅ローン控除

2021年度の住宅ローン控除について以下の対策が施行されています。

  • 消費税率の引き上げによる反動を減少させる対策
  • 新型コロナウイルス感染症への特別対策措置

これにより、控除が10年から13年へと特例期間延長されました。また、新型コロナウイルス感染対策の一環として、入居時期についての条件も緩和されています。従来は2021年末までの入居が条件でしたが、2022年末までの入居に延長されています。そのほか期間延長を受ける条件としては以下のとおりです。

  • 総所得金額が1,000万円以下であること
  • 面積が40㎡であること(改正前は50㎡)

参考:財務省「年度改正

2021年:年末調整改正項目に関する今後の注意点

年末調整実務担当者は、電子化への移行のため従業員の個人データを電子データとして保管する新たなシステム構築が必要です。特に、今まで従業員データを紙保管していた場合には注意が伴います。扶養控除申告書、保険料控除申告書、配偶者控除等申告書は7年間の保存義務があるため、紙保管と新たな電子データ保管の両立も必要です。

改正された点を踏まえて、2021年度から住宅ローン控除を受ける従業員や、ひとり親である従業員の把握等も必要です。

2022年以降の改正予定について

国税庁としては退職金の定義を「長年の勤労に対する報償的給与として一時に支払われるものであることなどから、退職所得控除を設けたり、他の所得と分離して課税されるなど、税負担が軽くなるよう配慮されている」としています。しかし、2022年1月1日以降に受け取られる退職所得に対しても改正が施行されます。対象は、主に勤続年数が5年以下である短期退職者に対する退職金です。

短期退職者にかかる退職所得額の計算方法が変更されるため、注意しましょう。

参考:国税庁「退職金と税

まとめ

政府の取組として年末調整の完全電子化に向け、2020年度に続いて2021年度も改正されている点が複数あります。従来の手書き業務の削減やペーパーレス化、電子化することで管理漏れの削減を目指しています。社内における年末調整が完全電子化することで、大きく業務時間・経費の削減にもつながるでしょう。実務担当者は電子化が完了するまでに以下のことにも取り掛からなければなりません。

  • 大きな業務システムの変更
  • 電子化に対する操作方法等を含めた従業員ひとり一人への周知徹底
  • 各種控除を受ける従業員の把握
  • 源泉徴収票の様式の変更への対応等

2022年度からの改正点も踏まえて、早めに準備と対応を検討し始めましょう。

HR-GET編集部

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